江戸前の釣り(4)
道了杭のかいず釣り
道了杭(どうりゅう)のかいず釣りも名物のひとつであった。道了杭というのは、東京湾の入口、お台場の沖にある澪筋で、両側に太い杭がずらりと並んでいた。古杭の延長に、コンクリートの新杭があったが、私は古杭の方を好んだ。
船を杭の列に平行に固定し、釣師は船の中に立ち、杭に向かって竿を振り込み、餌を杭すれすれに落として、杭がらみの黒鯛を狙うのである。杭が水面から少し顔を出しているくらいの、満潮のあとさきが狙い頃で、五百匁からの大型が随分出た。ただ、手早く杭から引き離さないと、杭に馳け込まれ、仕掛けもろとも盗られてしまう。その辺りが研究を要した。
昼よりは、むしろ、夜釣りであった。夏の夜の浴衣がけが、やはり、名物の名にふさわしい風情であったが、今や道了杭の姿は見られない。取り壊されてから六、七年にもなろうか。